栄養食とケアの関係

近年、AHN(人工的な水分・栄養補給法)導入をめぐる議論がある。この問題は生命倫理の問題として、食べることと生きることとの関係を考える場合に重要である。
日本老年医学会は2012/1月に「高齢者の終末期の医療およびケア』についての「立場表明」及び高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン―人工的水分・栄養補給の導入を中心として」を発表したが、ここには食べることが医学界でどのような位置づけを今日なされているかが見えてくる。

AHNには食は生命維持のためのもので、食の楽しみは欠如しているようである。食はあくまで生命維持のためのものであるという認識なのである。
しかし食は「生きること」の重要な要素なのだ。生きることは楽しみや喜びとともにあるものだ。
AHNの食論は、この食の「おいしさ」「楽しさ」の評価の認識が欠けている。また食べることが人生の価値観や人間関係とも関係しないものと考えられているようである。

こうした医学的食論は依然として心身二元論の思考のもとにあり、身体的レベルは、精神的レベルや人間関係的レベルと別だという思考がみられる。
医療の側の食の位置づけは、人工栄養も口からの栄養と同じく、身体の健康維持のためにあるとされる。それでは食と楽しみ・喜び・人間関係・ケア関係なども視野に入ってはこないだろう。

親しい人に食のケアをされることと器械で栄養を与えられることとは全く異なっているのだ。

なにしろ食べることはQOLに大きくかかわっている。このQOLについて、従来、本人の意志決定の問題とされてきたが、むしろQOLは本人を取り囲む周りの人々とのケア・コミュニケーションの問題の方が大きいといえないだろうか。