感染症と闘った先駆者:緒方洪庵の子孫たち

 NHKプレミアムで、「英雄たちの選択」という再放送をみた。江戸時代末期から明治時代に感染症と闘った三人の医にかかわる者たち;緒方洪庵、長与専斎、後藤新平。この3人が、現代の感染症コロナ禍のなかにいる私たちになにを語ってくれるか、取り上げた番組であった。

 番組は、緒方洪庵は医者として天然痘への挑戦、長与専斎はコレラ撲滅のための内務省の衛生政策の構築、後藤新平日清戦争軍人たちのコレラ検疫対策、という感染症への取り組みを取り上げたものである。

 このなかで私が注目したのは、緒方洪庵である。彼はどこまでも、人間の「いのち」への感染症の侵入・伝播を防ぐことを目指した医者であったようだ。

 コロナにかぎらず感染症パンデミックは、人間の国籍も人種も民族も文化も社会的地位も貴賤も選別しない「いのち」「身体」への侵入である。一国の首相あろうが、議員であろうが、芸能人であろうが、コロナウイルスは襲うのだ。ウイルスが好むのは人間間の社会文化の交流の場であっても、人間(の差異)を選ぶのではない。いわばウイルスは「人間を超えた」平等的なものといえそうだ。コロナウイルスは、人間の社会制度や文化が破壊しようとしてきた・している「自然の反撃」だといえるかもしれない。

 緒方洪庵の子孫である、現代コロナウイルスと闘っている医者たちも、そうした人間たちの社会的文化的営為が引き起こしてきたことへの「人間的なものを超えた力」の「反撃」に必死に戦っている者たちのようである。